細孔は、室内環境をどう変えるのか?
【細孔の科学 第3回】湿気を吸う力、吐き出す力。その先にある、快適な住まいの秘密。
雨が続く梅雨の季節。
窓には結露が発生し、部屋の中はなんとなくジメジメする。
一方、冬になると、暖房によって室内が乾燥し、湿度が気になることもあります。
私たちの暮らす住まいでは、季節や天候、生活習慣によって湿度が絶えず変化しています。
料理をする。
お風呂に入る。
洗濯物を室内に干す。
人が生活するだけでも、室内には水蒸気が発生します。
では、その水蒸気を、壁そのものが吸ったり放出したりすることができたら、室内環境はどう変わるのでしょうか。
今回の「細孔の科学」第3回では、2〜50nmという小さな穴の世界から、実際の住まいへと視点を移してみたいと思います。

1.室内の湿度は、一日中変化している
細孔は、室内環境をどう変えるのか?
私たちは室内の温度には敏感ですが、湿度については意外と意識していないかもしれません。
しかし、室内の湿度は一日を通して変化しています。
例えば、夜間に家族が入浴したあとや、料理をしているときには、水蒸気が増えることがあります。
また、外気の状態や冷暖房の使用によっても、室内の相対湿度は変化します。
ここで重要なのが、湿度は一定ではないということです。
湿度が上昇する時間もあれば、低下する時間もあります。
そして、この変化に対して、建築材料が水分を吸収・放出する働きを「吸放湿性」といいます。
調湿性能を持つ材料は、こうした湿度変化に対して、一定の緩衝作用を発揮することが期待できます。
2.調湿する壁は、何をしているのか?
ここで、前回の内容を振り返ってみましょう。
塗り壁材などの多孔質材料には、目に見えない小さな穴が存在します。
これが「細孔」です。
細孔の内壁では、水分子が吸着したり、条件によって毛細管凝縮が起こったりします。
そして周囲の湿度が低下すると、保持していた水分が外へ放出されることがあります。
例えば、室内の湿度が上昇したとき。
壁材が水蒸気の一部を吸湿することで、室内湿度の急激な上昇を緩和する可能性があります。
反対に、湿度が下がったとき。
材料に蓄えられた水分が放出されれば、急激な湿度低下を緩和する方向に働きます。
つまり、調湿する壁は、室内の湿度変化に対して水分を一時的に預かり、必要な条件で放出する働きを持っているのです。
調湿の本質は、吸い続けることではありません。
吸うことと、吐くことの繰り返しにあります。
3.メソ細孔が重要になる理由
第1回では、細孔を3種類に分類しました。
2nm未満のマイクロ細孔。
2〜50nmのメソ細孔。
50nmを超えるマクロ細孔。
細孔は、室内環境をどう変えるのか?その中で、今回注目しているのがメソ細孔です。
メソ細孔では、細孔表面への水分子の吸着に加え、条件によって毛細管凝縮が起こります。
そして、その現象が生じる湿度条件は、細孔径や表面の性質などによって異なります。
例えば、同じメソ細孔であっても、比較的小さな穴と大きな穴では、水分を保持し始める湿度条件が異なることがあります。
さらに、細孔の大きさが一種類ではなく、複数の大きさに分布していれば、水分の吸着・脱着がさまざまな湿度域で起こる可能性があります。
ただし、細孔径が幅広く分布していることだけで、優れた調湿性能が保証されるわけではありません。
内部表面の性質、細孔容積、穴のつながり方、完成した塗り壁材の構造も重要です。
このように、目に見えない細孔の構造が、実際の吸放湿特性に深く関係しているのです。
4.オアシスプラスハイパーNEOが持つ細孔構造
ここで、オアシスプラスハイパーNEOについて考えてみましょう。
オアシスプラスハイパーNEOは、メソポーラスシリカを使用した屋内用の塗り壁材です。
製品の公表資料では、メソポーラスシリカを80%配合していると説明されています。
また、その原料には2〜50nmの細孔がランダムに存在することが特徴として紹介されています。
この細孔構造は、吸放湿性能を考えるうえで注目すべき部分です。
しかし、ここで大切なのは、原料に存在する細孔と、施工後に完成した塗り壁材の性能を区別することです。
実際の壁では、原料同士の結合状態、施工厚さ、乾燥状態なども水分の移動に影響します。
したがって、原料の特徴を知ることと、完成した塗り壁材の性能を試験で確かめることは、どちらも欠かせません。
5.吸う力と吐く力は、試験によって確認する
塗り壁材の調湿性能は、どのように評価するのでしょうか。
日本には、建築材料の吸放湿性能を測定するための規格があります。
それが、JIS A 1470-1「建築材料の吸放湿性試験方法―第1部:湿度応答法」です。
この規格は、主に内装材を対象として、湿度変動に対する吸放湿性能を評価するものです。
基本となるのは、12時間の吸湿と12時間の放湿という試験です。
一定の温度条件で湿度を変化させ、材料の質量が時間とともにどのように増減するかを測定します。
湿度が高くなると、どの程度の水分を吸うのか。
湿度が低くなると、その水分をどの程度放出するのか。
そして、その変化にどれくらいの時間がかかるのか。
これらを確認することで、吸放湿性能を客観的に比較することができます。
オアシスプラスハイパーNEOについても、公式サイトでは一般財団法人建材試験センターによる吸放湿性能試験が紹介されています。
大切なのは、単に「吸湿性能が高い」という言葉だけで判断しないことです。
吸湿量・放湿量・測定時間・試験条件。
この4つを確認することで、機能性塗り壁材の性能をより正しく理解できます。

6.調湿する壁は、結露やカビにどう関係するのか?
ここからは、私たちの生活に直接関係する話です。
湿度と深い関係がある現象の一つが、結露です。
暖かく湿った空気が、冷たい窓ガラスや壁面などに接すると、表面で結露が発生することがあります。
また、湿った状態が長く続くことは、カビの発生にも関係します。
世界保健機関(WHO)は、室内の持続的な湿気やカビの問題を防ぐために、水分の管理、適切な換気、建物の維持管理などが重要であるとしています。
では、調湿性能を持つ塗り壁材には、どのような役割が期待できるのでしょうか。
それは、室内の湿度変動を緩和することです。
湿度が急激に上がる場面で、壁材が水蒸気の一部を吸湿すれば、湿度上昇のピークを抑える方向に働く可能性があります。
ただし、調湿する壁を施工しただけで、必ず結露やカビを防げるということではありません。
結露には表面温度が関係します。
また、雨漏りや漏水、断熱不足、換気不足などがあれば、塗り壁材だけで根本的な問題を解決することはできません。
調湿性能は、住まいの湿気対策を支える一つの機能として考えることが大切です。
7.乾燥する冬にも、調湿する壁は役立つのか?
調湿というと、湿気の多い夏や梅雨のイメージがあるかもしれません。
しかし、冬の室内にも湿度の問題があります。
寒い季節は、暖房によって室内の相対湿度が低下しやすくなります。
このとき、材料が水分を保持していれば、周囲の湿度低下に応じて放湿する可能性があります。
つまり、吸放湿性能は、湿度が高いときだけでなく、低いときにも意味を持つのです。
ただし、ここで注意したいことがあります。
調湿建材は、水分を無限につくり出せるわけではありません。
過去に吸湿して保持していた水分がなければ、放湿できる量も限られます。
そのため、冬場の乾燥対策では、必要に応じて加湿器などと組み合わせることも重要です。
調湿建材は、加湿器や除湿器の代わりというよりも、湿度変動を穏やかにする補助的な役割を持つ材料と考えると理解しやすいでしょう。
8.実際の住まいでは、何によって調湿効果が変わるのか?
ここまで、塗り壁材の吸放湿性能について説明してきました。
しかし、試験室で優れた性能を示した材料が、どの住宅でも同じ効果を発揮するとは限りません。
その理由は、室内環境にはさまざまな条件が関係しているからです。
例えば、部屋の広さと塗り壁材の施工面積。
壁材の厚さ。
換気量。
室内で発生する水蒸気の量。
冷暖房の使用状況。
そして、窓や外壁の断熱性能。
こうした条件によって、実際の室内湿度の変化は異なります。
2020年に発表された塗り壁材の研究でも、実際の室内環境での調湿効果には、換気や建物全体の水分移動が関係することが指摘されています。
つまり、調湿性能を最大限に生かすためには、材料選びだけでなく、住まい全体の設計や使用環境も重要になるのです。

9.良い塗り壁材とは、どのような材料なのか?
機能性塗り壁材を選ぶ際には、さまざまな特徴が紹介されています。
自然素材であること。
美しい仕上がりになること。
消臭性能があること。
吸放湿性能があること。
安全性に関する試験が行われていること。
こうした特徴は、材料選びの重要な判断材料になります。
しかし、吸放湿性能を比較するなら、実際にどの程度の水分を吸い、どれだけ放出するのかという試験結果も確認したいところです。
また、消臭、抗菌、防カビといった機能は、吸放湿性能とは異なる評価項目です。
それぞれの機能について、対象物質や試験条件を明らかにしたデータが必要になります。
私たちは、単に機能の数が多いという理由だけで材料を判断するのではなく、一つひとつの働きを科学的に理解することが大切だと考えています。
10.小さな穴から始まる、これからの塗り壁材選び
第1回では、スポンジや溶岩、活性炭、珪藻土、漆喰などの細孔について考えました。
第2回では、ナノメートルの世界に入り、水分子が吸着し、毛細管凝縮し、そして脱着する仕組みを学びました。
そして今回、私たちが普段生活している室内環境に、その働きがどのようにつながるのかを考えてきました。
壁は、部屋を仕切るだけの存在ではありません。
色や質感によって空間の印象を変えるだけでもありません。
使用する材料によっては、室内の湿度変動を緩和する機能を持たせることもできるのです。
そして、その働きの一部を支えているのが、目には見えない小さな細孔です。

まとめ|塗り壁材の価値は、表面だけではわからない
細孔の大きさ。
細孔の数。
内部表面の性質。
そして、水分を吸着し、放出する働き。
これらは、私たちの目には見えません。
しかし、材料の内部構造を知ることで、塗り壁材を見る視点は大きく変わります。
大切なのは、単に湿気を吸うことではありません。
湿度が高くなれば吸い、低くなれば吐く。
その繰り返しによって、室内の湿度変動を穏やかにすること。
そこに、調湿性能を持つ建築材料の価値があります。
オアシスプラスハイパーNEOに使用されているメソポーラスシリカも、こうした細孔の科学と深く関係する素材です。
科学的な仕組みを理解し、実際の性能を試験で確かめる。
そして、その機能を住まいの中で適切に生かす。
これからの塗り壁材選びには、そんな視点が必要なのではないでしょうか。
見えない小さな穴が、住まいの快適性を考える新しい可能性を教えてくれる。
これが、全3回にわたってお届けした「細孔の科学」の結論です。
参考文献・資料
Kreiger, B. K. & Srubar III, W. V. (2019). Moisture buffering in buildings: A review of experimental and numerical methods. Energy and Buildings, 109394.https://doi.org/10.1016/j.enbuild.2019.109394
Comparison of moisture buffering properties of plasters in full scale simulations and laboratory testing. (2020). Construction and Building Materials, 252, 119033.https://doi.org/10.1016/j.conbuildmat.2020.119033
Assessing the impact of moisture buffering properties of materials on indoor environmental quality: A study on a recycled material plaster. (2025). Building and Environment, 267, 112170.https://doi.org/10.1016/j.buildenv.2024.112170
World Health Organization (2009). WHO Guidelines for Indoor Air Quality: Dampness and Mould.https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK143947/
JIS A 1470-1:2014『建築材料の吸放湿性試験方法―第1部:湿度応答法』https://webdesk.jsa.or.jp/books/W11M0090/index/?bunsyo_id=JIS+A+1470-1%3A2014
オアシスプラスハイパーNEO 公式サイト・製品Q&A・試験資料https://oasis-plus.com/https://oasis-plus.com/q-and-a



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