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湿気を調整する「穴」は何が違う

執筆者の写真: ボディデザイン アウラン
ボディデザイン アウラン
4 時間前
読了時間: 9分

スポンジも溶岩も穴だらけ。では、湿気を調整する「穴」は何が違うのか?


【細孔の科学 第1回】目に見えない小さな穴が、建築材料の性能を変える。

私たちの身の回りには、無数の小さな穴を持つ物質が存在しています。

例えば、台所で使うスポンジ。

水をかけると、たくさんの水を吸い込みます。

そして手で絞れば、吸い込んだ水が出てきます。

一方、溶岩石にも無数の穴があります。

炭にも、珪藻土にも、漆喰にも、目では見えない小さな隙間や穴が存在しています。

それでは、ここで一つ疑問が生まれます。

「どれも穴を持っているのに、なぜ水分に対する働きが違うのでしょうか?」

実は、その答えの一つが、穴の大きさと構造にあります。

今回は塗り壁材の科学を考える第一歩として、「細孔(さいこう)」の世界を探ってみたいと思います。


「同じ穴でも、何が違う? 細孔の科学 第1回」とある、スポンジ状の黄色・黒・白の多孔質素材を並べた説明画像
さまざまな素材の細孔構造の比較:スポンジから軽石、炭まで、それぞれの違いを探る。

1.そもそも「細孔」とは何か?湿気を調整する「穴」は何が違う

細孔とは、物質の内部や表面に存在する小さな穴や空間のことです。

細孔を数多く持つ物質は「多孔質材料」と呼ばれています。

身近なところでは、スポンジ、木炭、溶岩石、軽石などが代表的です。

さらに、建築材料であるコンクリート、漆喰、珪藻土、石膏などにも大小さまざまな空隙が存在します。

ただし、穴が存在することと、水分を吸ったり放出したりする能力が高いことは、必ずしも同じではありません。

穴の大きさ、内部の表面積、穴同士のつながり方、素材そのものの性質によって、水や水蒸気に対する働きは大きく異なります。




2.細孔には国際的な分類がある

では、穴の大きさはどのように区別されているのでしょうか。

国際純正・応用化学連合(IUPAC)では、細孔を大きく3種類に分類しています。

① マイクロ細孔(Micropore)

大きさ:およそ2nm以下

分子レベルの非常に小さな空間です。活性炭やゼオライトなどに見られ、さまざまな分子の吸着に関係しています。

② メソ細孔(Mesopore)

大きさ:およそ2〜50nm

マイクロ細孔より大きく、マクロ細孔より小さな領域です。

水蒸気の吸着や、毛細管凝縮と呼ばれる現象にも関係することから、調湿材料を考えるうえで重要な領域です。

③ マクロ細孔(Macropore)

大きさ:およそ50nmを超える領域

比較的大きな穴で、水分や気体の移動経路などとして働く場合があります。

ここで登場する「nm(ナノメートル)」は、1mmの100万分の1という非常に小さな長さです。

私たちの肉眼では確認できない世界にも、細かな構造の違いが存在しているのです。



細孔の3分類を示す図。マイクロ細孔、メソ細孔、マクロ細孔を2nmと50nmで区分し、石の質感の背景に図解。
細孔の3分類についての解説:マイクロ細孔(2nm未満)、メソ細孔(2~50nm)、マクロ細孔(50nm超)を分子サイズや吸着特性に基づいて説明。


3.身近な材料の「穴」を比べてみよう

ここからは、代表的な8種類の素材を考えてみます。

① スポンジ|水を吸い、絞ると出てくる

スポンジには大きな連続した空間が多数あります。

その空間に水が入り込み、素材の形を変えることで水を押し出せます。

これは液体の水を保持し、機械的に放出する仕組みです。

空気中の水蒸気を吸着して湿度を調整する働きとは、区別して考える必要があります。


② 溶岩石|自然が生み出した多孔質構造

火山活動によって生まれた溶岩石の中には、気泡が抜けた跡として多くの穴を持つものがあります。

ただし、溶岩石は種類によって空隙率や穴のつながり方が異なります。

穴が多いからといって、すべての溶岩石が高い調湿性能を持つわけではありません。


③ 活性炭|小さな穴で分子を吸着する

活性炭には、非常に小さな細孔を数多く持つものがあります。

こうした微細な空間が、さまざまな気体分子や液体中の物質を吸着する働きに関係しています。

吸着する物質によって性能は異なりますが、穴の内部表面を利用する代表的な材料です。


④ 珪藻土|生物の殻が生み出した構造

珪藻土は、珪藻という微生物の殻が長い時間をかけて堆積したものです。

珪藻の殻には特徴的な微細構造があります。

さらに、珪藻土の粒子同士の隙間や、製造過程で生まれる空隙も存在します。

ただし、珪藻土なら何でも高い調湿性能を持つわけではありません。

産地や加工方法、塗り壁材に使用する結合材などによって、細孔構造と吸放湿性能は異なります。


⑤ 漆喰|伝統的な塗り壁材にも細孔がある

漆喰は、主に消石灰を使用した伝統的な塗り壁材です。

施工後、炭酸化などによって硬化していく過程で、結晶や粒子の間に微細な空間が形成されます。

漆喰の特徴として透湿性が挙げられますが、「湿気を通すこと」と「湿気を蓄えて放出すること」は同じではありません。

漆喰の吸放湿性能についても、配合や塗り厚、細孔構造などを考慮する必要があります。


⑥ ゼオライト|分子サイズの空間を持つ鉱物

ゼオライトは、結晶内部に規則的な微細空間を持つ材料です。

分子の大きさや性質に応じて、特定の分子を吸着する性質があります。

天然ゼオライトと人工ゼオライトでは構造や性能が異なり、水分に対する性質も一様ではありません。


⑦ シリカゲル|乾燥剤として身近な多孔質材料

お菓子や精密機器の包装などに入っている乾燥剤。

その代表的な材料がシリカゲルです。

シリカゲルには微細な細孔があり、内部表面に水分子を吸着する性質があります。

細孔の構造は製品によって異なり、水蒸気の吸着特性も変化します。


⑧ メソポーラスシリカ|ナノサイズの細孔に注目した材料

メソポーラスシリカとは、メソ細孔を特徴とするシリカ系の多孔質材料です。

2〜50nmという領域の細孔は、水蒸気の吸着・脱着を考えるうえで重要な研究対象となっています。

ただし、メソポーラスシリカにもさまざまな種類があり、細孔径分布や形状、内部表面の性質は同じではありません。

つまり、多孔質材料の性能を考えるときには、穴が存在するという事実だけでなく、その内部構造を知る必要があるのです。


4.漆喰と珪藻土の吸放湿性能は、何によって変わるのか?

湿気を調整する「穴」は何が違う。ここで、一つ興味深い研究をご紹介します。

2004年、日本建築仕上学会で発表された「珪藻土を添加した無機質系塗材の吸放湿性に関する研究」です。

この研究では、漆喰や石膏などの無機系結合材に珪藻土を添加した場合について、吸放湿性能と細孔構造の関係が検討されました。

その結果、珪藻土の種類や形状、使用する結合材によって性能が異なることが報告されています。

さらに、条件によってはメソ細孔の発達とともに、吸放湿性能の向上が確認されました。

つまり、重要なのは単に「珪藻土が入っている」「漆喰だから自然素材である」ということではありません。

どのような細孔が形成されているのか。

どのような素材を組み合わせ、どのような状態で壁になっているのか。

そこに、建築材料としての性能を考える大切なポイントがあります。


5.穴が多いほど、調湿性能も高いのか?

ここまで見てくると、もう一つ疑問が生まれます。

「それなら、穴がたくさんあればあるほど、湿気をよく吸うのでしょうか?」

実は、そう単純ではありません。

例えば、非常に大きな空間がたくさんあっても、通常の室内湿度では十分に水蒸気を保持しない場合があります。

一方、非常に小さな細孔では水分子が吸着しやすくても、放湿の速度や条件が用途に適さないことがあります。

さらに、穴の内部に水分が入り込めるか、外へ移動できるかという「つながり方」も重要です。

そのため、多孔質材料を評価するときには、細孔の大きさだけでなく、細孔容積、比表面積、細孔径分布などが研究対象になります。

そして実際の調湿性能は、決められた湿度条件で吸湿量と放湿量を測定することによって確かめます。

日本では、建築材料の吸放湿性能を評価するために、JIS A 1470-1という試験規格が設けられています。



メソ細孔の内部構造を示す図。多孔質シリカの拡大像に、2〜50nmの孔内を水分子が出入りし、吸着・放出の様子を解説。
メソ細孔の内部構造を示すイメージ: 2~50nmの小さな穴により、空気と水の通り道が形成され、水分子がシリカの表面に吸着する様子。


6.オアシスプラスハイパーNEOが着目した細孔

今回のテーマであるオアシスプラスハイパーNEOには、メソポーラスシリカが使用されています。

製品の公表資料では、2〜50nmの細孔がランダムに存在する原料を使用し、メソポーラスシリカを80%配合していると説明されています。

ここで着目したいのは、目に見える大きな穴ではなく、ナノメートル単位の微細な空間です。

ただし、原料の細孔構造と、施工後に完成した壁全体の細孔構造は区別する必要があります。

さらに、細孔の存在だけで調湿性能の優劣を判断することもできません。

実際に、どのような湿度で水蒸気を吸い、どの程度放出するのか。

その働きを知るためには、細孔の科学と吸放湿試験の両方を見ていく必要があります。


小さな穴の役割を解説する図解。スポンジ・溶岩石・活性炭・珪藻土・漆喰が並び、右に要点、下に水滴キャラがいる】【。
異なる材料の微細孔の役割を紹介する図解: スポンジ、溶岩石、活性炭、珪藻土、漆喰の例を通じて、それぞれの特性を解説。



7.まとめ|小さな穴には、それぞれ違う役割がある

今回、スポンジ、溶岩石、活性炭、珪藻土、漆喰などを取り上げてきました。

どれも穴を持つ材料ですが、その役割は同じではありません。

液体の水を保持する穴。

分子を吸着する穴。

水蒸気の移動に関係する穴。

そして、湿度の変化に応じた吸湿・放湿に関わる穴。

一見すると同じように見える多孔質材料にも、内部には大きな違いが存在しています。

私たちは塗り壁材を選ぶとき、自然素材であることや、見た目、質感、施工性などに注目します。

もちろん、それらも大切な要素です。

しかし、室内環境を整える機能を考えるなら、材料の内部で何が起こっているのかを知ることも重要ではないでしょうか。

塗り壁材の性能を考える、新しい視点。

それが「細孔の科学」です。

次回予告|湿気を吸う穴、吐き出す穴。その違いは?

次回は、いよいよ2〜50nmの世界に踏み込みます。

なぜ細孔の大きさによって、水蒸気を吸着する湿度条件が変わるのか。

そして、吸い込んだ水分が放出される仕組みとは何なのか。

「吸う力」と「吐く力」を科学的に考えていきます。



参考文献・資料

  1. Thommes, M. et al. (2015). Physisorption of gases, with special reference to the evaluation of surface area and pore size distribution (IUPAC Technical Report). Pure and Applied Chemistry, 87(9–10), 1051–1069. https://doi.org/10.1515/pac-2014-1117

  2. 山本康義ほか(2004)『珪藻土を添加した無機質系塗材の吸放湿性に関する研究 その2』日本建築仕上学会大会学術講演会研究発表論文集。https://doi.org/10.14820/finex.2004.0.3.0

  3. Maeda, H. et al. (2009). Preparation of Hydrothermally Solidified Mesoporous Materials from Diatomaceous Earth for Moisture Control Application. International Journal of Applied Ceramic Technology. https://doi.org/10.1111/j.1744-7402.2008.02283.x

  4. Hall, C., Lo, G. J., & Hamilton, A. (2024). Water vapour permeability of inorganic construction materials. Materials and Structures. https://doi.org/10.1617/s11527-023-02281-y

  5. 日本産業規格 JIS A 1470-1:2014『建築材料の吸放湿性試験方法―第1部:湿度応答法』

  6. オアシスプラスハイパーNEO 公式サイト・製品Q&A。https://oasis-plus.com/q-and-a

 
 
 

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